研究概要 |
この研究は、海南島北西部のたん州・臨高地域に併存してきた方言/言語集団それぞれの文化的特徴と、それらの間の境界維持メカニズムを、フィールドワークに基づいて解明することにある。海南島が文化的に複雑なのは、単にリーやミャオなどの少数民族が住んでいるためばかりではなく、その漢族住民の中にも多様な地方文化が見られることに由来する。われわれは2002年と2003年にたん州話、軍話、客家話、臨高話の話者のコミュニティーを調査し、また白話、海南話、普通話、黎話の話者についても関連する資料を収集した。近年、特にここ2〜30年来の生活様式の変化は著しいものがあるが、各方言集団の間の境界は未だに保たれており、また独自の祖先祭祀の様態や婚姻習俗なども20世紀の後期まで維持されてきたことが明らかになった。異なる方言集団間には多くの通婚が存在し、また自分の母語以外にも2,3の方言を話せるのは同地域では一般的である。このような通婚や多言語使用の状況は、近年にわかに生じた現象ではない。同姓者による宗親会活動は、異なる方言集団間をつなぐ重要な役割を果たしてきたように見える。しかし、このような異なる方言集団間の密接な相互接触にもかかわらず、住民間の言語的・文化的な多様性が保たれたことは注目に値する。その一方で、少なくとも現時点では、こうした方言集団はいずれも厳密な意味でのエスニック・グループとは見なし得ない。なぜならば、住民たちは居住地、出身地、言語的または文化的近縁性など、状況に応じて多様な要素を援用しながら自分たちのアイデンティティーを語るからである。
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