研究概要 |
本研究は,モノについての定量的なデータを扱う分野であるという印象を強くしてきた生態人類学においても,実はすぐれてコミュニケーショナルな現象が扱われてきたという視点から,アフリカ熱帯雨林住民の生活を捉え直すことを目的とした。具体的には以下のような事項に関する調査・研究がおこなわれた。 人々のおりなす社会的相互行為という側面からは,木村によって農耕民,狩猟採集民の日常的会話・行動の分析が進められた。この成果は「共在感覚」と題する著書として出版されている。研究協力者・大石,島,稲井も,農耕民,狩猟採集民,漁撈民のコミュニケーション状況について調査をおこなった。そこでの議論は単なるメディア研究ではなく,生業活動,文化と密接なかかわりを持ちつつおこなわれている。狩猟採集民の日常的相互行為の根幹に位置するとされてきた「平等主義」と「分配」については,寺嶋によって理論的な,北西によって実際のデータにもとづいた研究がおこなわれ,この成果も著書として出版されている。生業を異にする民族間,あるいは国家と民族の社会・経済的関係をコミュニケーションという視点から明らかにしていく作業は,市川,北西,大石,稲井を中心におこなわれ,豊富な事例データが蓄積されてきている。寺嶋,市川,小松は人々の自然環境についての豊かな知識がどのように獲得され,コミュニケートされているかについて,具体的事例にもとづいた研究をおこなった。 現在,生態人類学の研究においては,何らかの形で方法論的なフロンティアを求める必要があることが言われているが,本研究は,そこにコミュニケーションという形のフロンティアを見いだそうという,ひとつの実践的試みであった。ここでは一定の成果を挙げることができたが,今後その成果をもとに,さらなる研究を積み重ねていく必要があると言える。
|