研究概要 |
1.中国・浙江省の浙江省博物館において所蔵敦煌文献を閲覧・調査することができた.内容は写経を中心として,一部断片的な俗文書にも及んだ. 2.写経のうち,『佛説天地八陽神呪經』は偽経だが,ロンドンの大英図書館所蔵のスタイン将来敦煌文献のコレクションに含まれる写本と比べると,特色を有するものであることが初歩的な比較対照の結果,明らかになった.今後,スタイン文献のみならず,パリの国立図書館所蔵のペリオ将来敦煌文献のコレクションに含まれる写本なども含めて,本格的な比較対照作業が必要となろう. 3.俗文書のなかで注目されたのは,断片的な交付文書の一種だが,同種のものには,サンクトペテルブルグのロシア科学アカデミー東洋学研究所サンクトペテルブルグ支所に所蔵されているものがあることが指摘できる.今後は本研究の成果をふまえ,これらを比較対照する作業が必要となろう. 4.文献の性格や内容を問わず,筆写の過程で誤字・脱字をいかにして修正するのか,という問題関心から各種文献を仔細に観察すると,多様な手段が使われているごとを再認識することができた.その手段によって,当該文献の性格や機能,換言すれば重要性がわかるし,またさらに言えば,当該文献の真贋判定にも手がかりを提供することになるという確信をもつことができた.
|