本研究は、ベトナム北部の民家など伝統的木造建造物の架構法の建築的特徴と歴史的変遷を明らかにすることをめざして、平成14年度から3カ年の計画で実施している。 最終年にあたる本年度においては、以下の通り、これまでの実地調査から得た資料・情報に基づいた分析・考察、実物大モデルを用いた加力実験とその分析・考察をおこなうとともに、ベトナム中部および南部の建築との比較研究を含めた総合的な考察をおこない、研究の総括と今後の課題・展望を提起した。 (1)ベトナム北部4省の伝統的民家主屋における架構と空間区分についての考察 ベトナム北部の4省(バクニン省、ナムディン省、タインホア省、ハテイ省)における民家調査の成果を踏まえて、これまでに提起した架構類型とその構成に着目しながら、主室の中央空間とその両脇・前後の空間との関係、さらに室内空間と半戸外空間であるヒエン空間との関係などについて、互いに比較し考察した。その結果、北部民家の主屋内部における機能分化の過程について、先祖を祀る祭壇を中心とした序列的意識のもとで、次第に主人のための接客・居間空間を包摂し、かつ区分されていく4段階の発展過程を示した。 (2)ベトナム中部および南部の伝統的民家の架構との比較考察 北部民家と比較する目的から、中部および南部における民家(考察対象としたのは、フエ省、クァンナム省、クァンガイ省、ドンナイ省、ティエンザン省の各省における総数2106件)の架構法について考察した。大きく2系統に区分でき、棟木を支承する柱を用いた原始的で簡素な型式から発展したものを中心にして、高床・板倉の建築に遡りうる型式が混在し、19世紀後半以降、南部地域において大型化していった過程を示した。 (3)ベトナム北部の伝統的集落における家屋・屋敷の変容過程についての考察 北部の典型的な集落としてハテイ省のフーフゥ集落を取り上げたこれまでの実地調査の成果を総括し、集落全体から個々の家屋に至る各レベルでみられる変容の実態を整理しながら、その要因と背景を明らかにした。 (4)ベトナム北部民家の架構モデルを用いた静的加力実験とその分析 北部民家の典型的な例としてバクニン省に実在する民家の架構の実物木部分模型を作成し、日本で組立てた。屋根部分には現地での実測調査に基づいた瓦の重さを積載し、各部の変位及びひずみを測定した。更に静的水平加力試験を行い構造物の耐力と剛性を定量的に明らかにした。その結果、当該民家の架構は変形角1/120rad.で、早々せん断力係数にして0.3程度あり、日本での設計基準とてらしても十分の耐力と剛性があることが明らかになった。
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