研究概要 |
本研究の主たる目的は,1990年代半ば以降のイスラーム世界におけるジハード理論の変容,具体的には「防衛ジハード」の戦場を米国本土にまで広げ,一般市民をも攻撃対象とするウサーマ・ビンラーディン独自の理論が受け入れられた過程と,この理論を実践しようとする諸組織の実態について体系的な分析を行うことにある。この目的を達成するため,初年度にあたる本年度は,研究代表者と3人の研究分担者がそれぞれウズベキスタン,アラブ諸国,パキスタン,イランで現地調査を行った。ウズベキスタンでは,近年中央アジア諸国に浸透していると言われる「解放党」を中心に,スンナ派の現代ジハード理論に関する資料収集と聞き取り調査を実施した。「解放党」はウサーマ・ビンラーディン型のネットワークを根底で支える世界で唯一の国際イスラーム組織であるが,中央アジアでは非合法化されているため,直接接触することができない。したがって,聞き取り調査の対象は主として現地の研究者となった。一方,「解放党」発祥の地であるアラブ諸国でも中央アジア諸国の組織との間のネットワーク構築に焦点をあてた現地調査を実施した。同時に,この調査では現代イスラーム運動の世界的権威で旧知のイエメン・フランス考古学・社会科学研究所フランソワ・ブルガ所長と面談し,共同研究のあり方を含めた情報交換を行っている。これに加え,ビンラーディン型ジハード理論の浸透が著しいパキスタンでもスンナ派の現代ジハード理論に関する資料収集と聞き取り調査を行った。また,イランではシーア派12イマーム派の現代ジハード理論に関する資料収集を行うとともに,同派を代表するモッラー(イスラーム法学者)からイラン・シーア派の現代ジハード理論に関する聞き取り調査を行っている。なお,このようにして収集された情報と資料は国内で開催された研究会を通じて共有され,来年度以降の研究計画に反映されていくことになる。
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