研究概要 |
本研究の主たる目的は,1990年代半ば以降のイスラーム世界におけるジハード理論の変容,具体的には「防衛ジハード」の戦場を米国本土にまで広げ,一般市民をも攻撃対象とするウサーマ・ビンラーディン独自の理論が受け入れられた過程と,この理論を実践しようとする諸組織の実態について体系的な分析を行うことにある。この目的を達成するため,2年度目にあたる本年度はアラブ諸国を重点調査地とし,研究代表者と2人の研究分担者がそれぞれエジプト,シリア,イエメン,バハレーン,UAEで現地調査を行った。またイラク占領下でのジハードに関する隣国イスラーム主義者の見解を聴取するため,イランとトルコでも2人の研究分担者が調査を実施している。エジプト,シリア,トルコ,イエメン,UAEでは,スンナ派の現代ジハード理論に関する資料収集と聞き取り調査を行ったが,特にエジプトとシリアでは研究分担者の中田が両国の最高ムフティー(イスラーム法判断の権威)アリー・ジュムア師,クフタロー師と面談し,イラク占領軍に対するジハードは義務である旨の見解を得た。一方,自衛隊に関する両ムフティーの見解は,派遣の意図がどうあれジハードの対象になるという意見と,占領でなく人道支援を意図して派遣されるのであればジハードの対象にはならないという意見とに分かれている。ほかに,イエメンでは昨年度に引き続き,フランス考古学・社会科学研究所フランソワ・ブルガ所長と短期間ながら同国におけるジハード実践に関する共同調査を行った。さらにシーア派12イマーム派の現代ジハード理論については,昨年度からの継続調査地であるイランに加え,バハレーンでも資料収集と聞き取り調査を実施している。なお,当初計画していたサウジアラビアでの現地調査は,イラク占領下の混乱が波及し治安情勢が悪化したため,延期を余儀なくされたが,来年度以降,状況が好転し次第,実施する予定である。
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