研究概要 |
本年度は,来年度以降に本格的調を予定している諸国の予備調査を行った。とくに比較対照の軸となるフィリピンについては,今後,共産党ゲリラに加え,イスラム教徒問題が先鋭化する危険を有しているため,治安面を含め,本格調査のための十分な情報を収集した。研究代表者中西は,マニラ首都圏のスラムにおける調査では,居住者間の錯綜した社会関係を,(1)親族関係,(2)同郷者関係,(3)儀礼親族関係の諸点から捉えるための基礎的データを収集する一方,貧困地方として東ネグロス州とサマール州を,富裕地方としてヌエバ・エシハ州とアクラン州を,それぞれ選択し,来年度の本格調査のための政治情勢を含めた基礎的データを収集した。この結果,経済不安定期において儀礼親族関係が親族関係を補完・代替する役割を果たしている匿名性の高い都市部の貧困層に対して,米作農村の貧困層ではそれが相対的に弱いものの,決して無視できない重要性を有している可能性を発見した。この論点は既に共著としてまとめた中西(2002)の論点を支持するものであり,アジア政経学会全国大会および京都大学において調査の成果を発表した。東南アジア的な緩やかな共同体的特質をもつフィリピンの社会との比較において,韓国とベトナムは強固な共同体という東アジア的特性を有している。研究分担者瀬地山は,本格調査のためにジェンダーという視角を導入する新しい枠組みを考案し,これら二国の社会制度を解明するための予備調査を実施し,結果をCenter for Family and Women's Studies主催の国際会議(ベトナム)において論文を発表した。さらに,本格調査のために,発展途上地域社会の包括的理解に資する準拠枠組みを,研究分担者幡谷はコロンビアにおける都市貧困層の集団的政治行動の分析を通して,研究分担者丸山は地域通貨の可能性の分析を通して,それぞれ議論をすすめ,研究成果を公表した。
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