研究概要 |
本研究の主たる目的は,急速に変化し続ける国際政治・経済環境下におけるアジア太平洋地域のフードシステムの構造的変容を記述・分析すること,そして,国際貿易・協力政策に関するさらなる議論のための情報を提供することである。過去3か年に,中国,台湾,タイ,マレーシア,オーストラリア、メキシコにおいて,基礎的現地調査を集中的に行ってきた。 本研究の方法論における独自性は,フードシステムの経済分析と農村開発における経験の詳細な記述を結びつけることにある。 筆者らの結果は次の2つである。 (1)グローバル経済のメインプレーヤーたる多国籍企業群による「垂直的インテグレーション」の発達。 環太平洋地域諸国における多国籍企業の展開は、WTOおよびFTAの推進によって急速に高まっており、しかも国によっては、外部資本の導入を政策の一環としてとらえており、こうした展開は自国経済の発展を促すと同時に、内発的開発との調整および適正な競争の誘発をどのように進めるかが今後の大きな課題としてクローズアップされた。 (2)現地レベルの農民団体,NGO,先進国消費者らの間における「水平的ネットワーク」の出現。 国内の農民団体、NGO、生産者組織などが新たに結成され、こうした諸組織の内発的活動や運動が、国内の経済開発や隣国との経済協力など新しい発展の原動力となり得る可能性が認められた。 以上のようなフードシステムにおけるこれら垂直的,水平的ダイナミクスは,持続的な農村開発,資源管理,環境保全など様々な政策的文脈において,互いに影響し合っていることが今回の調査研究によって明らかにされた。今後はこの基礎的調査研究をふまえ、さらに環太平洋地域におけるフードシステムの機能とアジア地域における食料安全保障問題への深部に接近する課題が解明された。
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