先進国が直面している資源・環境問題などを解決し、持続可能な社会を展望するために、アメリカのアーミッシュ、オーストラリアのアボリジニ、ニュージーランドのマオリについて、ライフスタイルと情報との関係を調査研究した。本年度の現地調査は、アボリジニとマオリについて実施し、アーミッシュについては、文献資料により分析を行った。その結果、これら3つの社会は、いずれも伝統の遵守と近代化の狭間で揺れ動き、大きな変容の波にさらされているが、近代化への対応の仕方はそれぞれ異なることが明らかとなった。特に、現代文明に対して大きな距離を保っているアーミッシュと近代社会に順応したマオリは対照的である。アーミッシュの場合、宗教的規範が強く、それが、彼らの情報活動を大きく規定していることが明らかとなった。それは、特に、学校の教育内容に反映されており、地理(geography)のような教科でさえも、アーミッシュの価値観を反映した情報提供を行なっている。一方、マオリは、世界各地の先住民の中では例外的に、西洋のライフスタイルを大幅に取り入れ、西欧近代文明に適応したけれども、近年、マオリ・アイデンティティの復活とマオリ文化の復興運動が興り、伝統的ライフスタイルへの回帰が一部で見られるようになった。今年度の研究では、ニュージーランドにおいて、このような運動がもっとも早くから広く行われてきたワイタケレ市をケーススタディとして取り上げ、エコ都市として持続可能な社会を目指して街づくりを行っているワイタケレ市において、マオリ社会がどのような意味を持っているかを研究した。その結果、ワイタケレ市の先進的な街づくりが成功したのは、市自治体が、マオリなどマイノリティを尊重し、市民が主となった街づくりをすすめてきたこと、そして、伝統的な環境観を有するマオリが、積極的に街づくりに参加してきたためであることが、明らかとなった。
|