研究概要 |
平成17年度は16年度の研究方法を踏襲しニュージーランド(NZ)産、アルゼンチン(Ar)産、マダガスカル(Md)産、マレーシア(Ml)産蘚苔類およびシダ類の生理活性成分研究を行った。1:NZ産苔類:苦味を有するツボミゴケより12種の新規および4種のent-カウレン型ジテルペノイドを単離構造決定した。そのうちent-11・-hydroxy-16-kaurer-15-oneおよびjungermannenone Dと命名した変形カウレンは人白血病細胞に対し強い細胞毒性とアポトーシスを示した。スギバゴケLepidozia spinosissimaからは5種の既知化合物とともに苔類から初めて海洋生物から得られるゴルゴナン型セスキテルペンを単離構造決定した。アキウロコゴケの一種Jamesoniella kirkiiから3種のイソピマラン型および2種のent-カウラン型ジテルペンをえた。Balantiopsis roseaからこれまで苔類から全く得られていない3種の1-cyclohexyl-2-phenylethane骨格を有する化合物が得られ、これらの化合物が苔類固有のbibenzylおよびbisbibenzyl生合成中間体であることを提唱した。2:Ar産苔類:ヤスデゴケ(Frullania),ハネゴケ(Plagiochila),クラマゴケモドキ属(Porella)各種は未同定であるが、多数のユーデスマン型、2,3-セコアロマデンドラン型およびピングイサン型セスキテルペン類を含有していることをGC/MSで確認した。また強烈な辛味を有するシダ、Thelypterishispidulaの辛味の本体はニスビキカヤゴケ類に多量含有されているpolygodialであり、ニュージーランドのシシガシラ属シダの辛味もpolygodialであること、また最近当研究室でコウヤシノブゴケ(シダ類)より環状ビスビベンジルが発見されたことを合わせ、ある種の苔類とシダ類の化学相関が見られ、陸上下等胞子植物の進化のなぞに迫る貴重なデーターが得られた。3)Md産苔類:Md固有種であるBazzania, Plagiochila, Marchantiaなどのエーテル抽出物をGC/MSにて分析、多数のシクロミルタイラン型や、クパレン型セスキテルペンを確認したが日本産のものと成分比に差があるものの新規骨格を有する化合物は単離できなかった。4)Ml産苔類およびシダ類:西マレーシアのカメロンハイランドにて採集したゼニゴケ類2種は大多量の環状ビスビベンジルを含有し、それらが強い抗高脂血症活性を有することを明らかにした。環状ビスビベンジルであるriccardin Cは肝臓X受容体のアゴニストとして、またLXRβのアンタゴニスとして作用することを見出した。また食用シダのDiplazium esculentum多量のフラボン類を含有していた。南半球産苔類の成分比較のため、本邦産タカサゴソコマメゴケ(Jackeilla javanica)およびオオケビラゴケ(Radula perrottetii)成分研究も同時に行い、前者から3種の新規ent-バーテイセラン型ジテルペン、後者から新規ビシダ型ジテルペン炭化水素2種と4種の新規ビザボラン型セスキテルペノイドを単離構造決定した。さらに苔類およびシダ類の化学成分からそれらの系統分類について考察した。これらの結果は国際シンポジウムで7回、国内シンポジウムなどで9回発表し、9報の原著(内3報は印刷中)を報告した。4年間の研究業績をもとに、さらに本プロジェクトは継続し、薬用資源へのアプローチと分類が極めて困難なこれらの植物の化学系統分類を教員、大学院生、3名の外国人博士研究員挙げて研究していきたい。
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