研究概要 |
初年度(平成14年度)の調査は,計画通りの項目について実施できた。これに加えて,NO.194,108,72の各洞窟において,電極間隔を25cmとした電気探査を実施し,中層と下層に位置する洞窟周辺の湿気の程度について新しい知見を得た。塩分の分析は,敦煌研究員の担当とし,時間経過による変質を避けるため即日分析に供した。ただし,試料の採取地点は,壁画の剥離部分に限定されるため分布状況に偏りが認められるが,下層では塩化ナトリウム(Nacl),中層では硫酸ナトリウム(Na_2SO_4)が確認され,壁画背面に影響を及ぼす湿気の移動に相異が見られた。調査と研究により得られた知見を以下に示す。 1.人工衛星画像解析と現地踏査の照合において,明瞭な一致を見た。特に,花崗岩と片麻岩の広域分布状況について詳細を把握することができた。 2.気象条件について,阪大の設置した気象ステーションをベースに,崖上の米国ゲティ文化財団のステーションとの比較を行うことが可能となり,局地的な気象条件を連続して取得することが可能となった。 3.壁画を透過する水分の挙動は,きわめて複雑なものであることが判明し,結露や塩の潮解を確認するには,きわめて高精度のセンサーを使用して,一年間連続測定を行うことが重要である。 4.岩石中の塩分は,採取地点毎に大きく異なり,初期値あるいは基準値を設定することは現時点では困難である。水を使用しないボーリングが望ましい。
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