研究概要 |
サウジアラビア国タイーフ市のマントヒヒのダムサイト群を対象に、2002年7、8月、11月-2003年2月の期間に研究組織メンバーが交代でフィールド観察を続けた。イヤー・タッグで識別した個体の確認から社会構造の変化を調べた。また、群の個体数カウントをした。全体は約500頭だが、連続的に道路を横切る個体数はばらつきが多く、しばしば分かれて移動していることが分かった。マントヒヒの捕獲は2003年1月に4日間行い、86頭捕獲した。捕獲個体は計測、採血、イヤー・タグつけを行った後、放した。採集した血液はサウジアラビナで遠心分離し、分画中のバフィーコート(白血球等の有核血液細胞を含む)のみを持ち帰った。今後実験室で分析する。また、捕獲後も新たにタグをつけた個体の社会関係を観察した。識別個体を用いたデータの分析から、ユニットの安定性は比較的低いことが分かったが、ユニットの寿命を計算するには、データが十分でない。また、識別個体から、ダムサイト群は少なくとも3バンドから成り立っていることが分かった。 これまで集めた血液サンプルの分析を進めている。サウジアラビアとエチオピアのマントヒヒの遺伝的変異性の分析からマントヒヒの種分化過程を分析している。ミトコンドリアDNAのD-loopの上流可変領域の430塩基の配列を決めた。サウジアラビアの6地点、それぞれ、15,8,8,5,5,14個体、エチオピア東部の1地点の10個体の合計65個体の解析を行った。サウジでは15のハプロタイプが見いだされ一部地域極在性の傾向も見られたが全般によく混ざり合い、北から南までgene flowが起きていると示唆された。エチオピアの10個体は全て異なるハプロタイプを示しその半分はサウジに近縁だった。この結果はエチオピアの方が変異性が高いように見えるが解析個体が少なく、さらに材料を増やして分析する必要がある。
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