研究概要 |
サバンナヒヒの単層で母系の社会からマントヒヒの重層社会への転換過程を解析するため、これまで研究されてきたエチオピアのマントヒヒとは地理的に隔離されたアラビア半島のマントヒヒがエチオピアと同じような社会構造を持つのか調査した。両地域のマントヒヒの遺伝的相違を調べるため、サウジアラビアの7カ所(Dharan, Medina, Taif, Al Baha, Abha, Bisha, South Coastのワジ・ダーバン)で捕獲採血をした。血液蛋白の分析からサウジアラビアの方がエチオピアより変異が多いことから,マントヒヒのアラビア半島起源説を庄武は唱えていたが、今回のミトコンドリアDNAの分析では、逆にエチオピア側の方がサウジアラビアより多様なハプロタイプを持つことがわかり、前説とは逆の結果を得た。一方、サウジとエリトリアのハプロタイプが、アヌビスヒヒと共通のクレード入るといった、前説を支持する結果も得た。これらの結果は、さらなる研究を促す。タイーフでは、500頭以上の個体からなるダムサイト群を集中的に調査した。ユニット内のメスがリーダーオスのコドモをどれほど残すのかという観点から、毎年捕獲採血を行った。マイクロサテライトDNAの分析は、ワン・メール・ユニットのリーダーオスがユニット内のアカンボウの父親であることは少ないことを示した。捕獲個体の耳にタッグを装着し、社会生態的観察に用いた。1988年から2003年までの間に、209頭を耳タッグで標識したが、着けた耳タッグは脱落するものもあるので、2002、2003、2004年には、57、89、105頭の個体が標識されていた。標識個体の5年間の継年調査から、ワン・メイル・ユニットが不安定で、様々な形でメスのユニット間の移籍が起こっていること、クランやバンドが年を越えて継続しないこと、オスの未成年個体が消失することなど、クランやバンドといった構造に疑問を呈し、また、父系制にも疑問を提出した。
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