オーストラリアに分布するビロウ属(Livistona)の種はそれぞれが特徴的な分布域、隔離状況、生育地、個体群サイズ等を示す。これらの種群の系統関係や進化のプロセスを明らかにするために、平成14年度はオーストラリア東北部において、様々な生育環境に適応し、個体群サイズも異なる分類群を可能な限り包括的に研究試料として採集することを試みた。採集を行ったオーストラリア・クイーンズランド州において、海外研究分担者のDavid Bowmanおよび、Livistona属の系統分類のスペシャリストであるJohn Dowe(James Cook University)とともに、陸路を6000キロメートル走破し、オーストラリア東北部に分布するLIvistonaのすべて分類群を採集した。すべての採集場所ではただ単に系統関係解析のためのサンプルを採るにとどまらず、集団間の遺伝子交換に関する解析に十分な数のサンプルを採った。 ヤシ類は外部形態に大きな多様性が認められる反面、植物の系統関係推定のために一般に用いられている葉緑体DNAの塩基配列には変異が少なく、その情報を利用した系統関係の推定が難しいという特徴がある。様々な領域を検討した結果、核遺伝子であるmalate synthase領域におけるシーケンシングによって系統関係推定のために十分な情報が得られることがわかった。malate syntase領域の解析を本年度採集を行ったオーストラリア西部のLivistona属植物と、昨年度のオーストラリア中央部におけるLivistonaの予備調査における採集品と合わせて解析を行い、これらの系統関係について検討を行った。
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