研究概要 |
樹木の更新動態:林床に優占するタケが開花・枯死し、現在森林の更新及びタケの再生がモザイク状に進んでいる、カンチャナブリ県メクロン集水域試験地内の森林動態長期モニタリングサイトにおいて、林床のタケを除去したギャップサイトと閉鎖林冠下の二つの実験区で、乾燥と地表火が主要構成種の実生の生残・成長にどのように影響するか、実験的に評価した。落葉混交林(MDF)を構成する樹木6種の実生の成長速度と生残率は、いずれも閉鎖林冠下に比べ、タケの存在しないギャップ内で高かった。しかし、斜面下部に分布し、ほぼ常緑のDipterocarpus alatusとD.turbinatusは、閉鎖林冠下でも比較的高い生残率を維持し、乾期における給水は有意に生残率を高めた。また、両者の実生は、地表火の後、すべて死亡した。対照的に、落葉性の4種は、地表下の後でも多くが萌芽によって再生した。また、ギャップ内では、閉鎖林冠下に比べ、実生の乾期の生残率と地表火を受けた後の生残率が高かった。ギャップ内の実生では閉鎖林冠下よりも地下部へのアロケーションが大きく、火事後の萌芽能力を支えていると考えられた。光環境、乾燥、山火事の3つの環境因子の相互作用に対する構成樹種間の適応分化が確認された。成果は、投稿中である。 タケと主要構成種の生理特性:一斉開花枯死したタケの1種(Cephalostachyum pergracile)と4種の樹木(Shorea siamensis, Vitex peduncularis, Xylia xylocarpa, Hopea ferrea)の光合成速度、気孔コンダクタンスの季節変化を測定し,林冠の二酸化炭素フラックスの季節変化との関係を、メクロン集水域試験地およびサケラート試験地において解析した。林冠の二酸化炭素フラックスの季節変化は、乾燥落葉林(DDF)では、個葉のガス交換の変化より森林の葉面積指数の変化に依存しており、反対に、乾燥常緑林(DDF)では、葉面積指数より個葉のガス交換の変化が、季節的な林冠フラックスの変動に効いていることが明らかになった。また、一斉開花枯死したあとのタケによる二酸化炭素の吸収は、タケ実生の物質生産過程に依存しており、林冠ギャップによって形成された光環境の不均質性が、タケ一斉開花枯死後の林床でのタケ実生による二酸化炭素固定速度に大きく影響していることが明らかになった。 土壌中の炭素と栄養塩類の動態:タケの一斉開花枯死とその後に起きる山火事が落葉混交林の表層土壊特性に及ぼす影響を定量的に評価するための実験プロットをメクロン集水域試験地内のタケ一斉開花枯死部分及びタケが生存した部分に設定した。プロット内の土壌の表層(0-5cm)及びそのすぐ下の層(5-15cm)から、化学分析のサンプルを採取し、実験室内で分析を行った。また、各プロットに土壌呼吸測定のチェンバーをセットし、土壌呼吸及び地温と土壌水分の季節的な変化を観測している。
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