研究概要 |
本研究の目的は、フィールド調査などで収集する海外各地および日本産の植物病原菌に対して分子生物学的アプローチにより病原菌の病原性進化の道筋を想定し、これと宿主植物の進化・育種の歴史を併せ、植物病原菌が「いつ・どこで宿主植物に対する病原性を獲得」し、また、「それ以降現在までどのようにして病原性を進化させてきたか」を考察することである。 昨年中に、主に、1,トマト原産地であるチリ北部で野生トマト属植物を採集し、数百の糸状菌菌株を分離した、2,分子系統学的手法により、トマト萎菌凋病菌F.oxysporum f.sp.lycopersiciでは、世界的に3つの系統が存在することを示した。本年の主要な実績は以下の通りである。 1、H15年度にトマト原産地であるチリ北部で採集した野生トマト属植物から分離した糸状菌の同定を行った(成果は、2003年9月の日本植物病理学会関東部会で報告)。同定は、形態学的観察、分子同定法を併用した。 2、1で同定した糸状菌のうち、F.oxysporumについて、トマトに対する病原性検定を行ったところ、病原性を持つ株は認められなかった。 3、1で同定した糸状菌のうち、F.oxysporumについて、分子系統解析を行った。大変興味深いことに、野生トマト属植物から分離したF.oxysporumは、トマト萎菌凋病菌F.oxysporum f.sp.lycopersiciに近縁であることが判明した(成果は、2003年11月の糸状菌分子生物学コンファレンスで報告)。 4、3で示した結果は、野生トマトに、病原性を獲得する以前の、トマト萎菌凋病菌の祖先に近縁の菌が定着していることを示すものであり、トマト-萎凋病菌の共進化を強く示唆した。 5、これらをふまえて、確認のため、平成16年3月に再度チリ北部における野生トマトの採集を行った。
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