研究課題
基盤研究(B)
ブラジルの各種動物より分離された狂犬病ウイルスN蛋白の分子系統学的解析を行った。その結果、ブラジルの家畜狂犬病は主に吸血コウモリに媒介されていることが明らかとなった。食果コウモリから分離されたウイルスは、吸血コウモリ由来ウイルスと同一系統である一方、多くの食虫コウモリ分離ウイルスは、吸血コウモリ由来株とは別系統であった。なお、食虫コウモリの種に依存した変異株の存在やコウモリ内での複雑な感染環の存在が示唆された。イヌ型と吸血コウモリ型ウイルスのG蛋白質推定アミノ酸配列の違いから、それぞれの型において抗原性状が異なる可能性が推察された。分子系統解析結果を基に、由来ウイルス特異的RT-PCRおよび制限酵素断片長多型(RFLP)解析を併用した鑑別法、さらにより多種類の宿主依存的変異株を迅速・簡便に鑑別する方法としてmultiplex RT-PCR法を確立した。その結果、調査したブラジル野外狂犬病ウイルス分離株は4つの変異株型、すなわち、イヌ型、キツネ型、吸血・食果コウモリ型および食虫コウモリ型に分類された。本法は、特にブラジルのような複雑なウイルス感染環が存在する地域において、ヒトを含む各種動物狂犬病の感染源の特定に有用である。近年増加傾向にある野生動物由来狂犬病に対して、安全で有効な生ワクチンを開発する目的で、ワクチン株のcDNAを用いたP遺伝子欠損狂犬病ウイルスが作製された。本ウイルスは、マウスに防御能を賦与し、かつ非病原性であった。この遺伝子欠損ウイルスは、野外株のG遺伝子を組込むことで、野外流行株の抗原性に近いより有効性の高いワクチンウイルスへと遺伝子改変できることから、各地域の流行ウイルスに即したワクチン戦略への応用が期待される。
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