研究概要 |
2002年9月にヴァヌアツ共和国のエスプリット・サント島,マラクラ島,およびエファーテ島において,Metroxylon warburugii(Heim)Becc.の生産生態ならびに利用の状況について調査した。いずれの島においても,Metroxylonは地方名でnatanguraと呼ばれている。本種の際立った外形上の特徴としては,花梗が直立して着生することと,小葉裏面の葉色が薄いことである。 自然林は海岸や川に近い場所で雨季には滞水するような場所にある。しかし,栽植された群落は集落の比較的近い場所に広がっている場合が多い。特に,エスプリット・サントでは道路や畑のボーダーとして,マラクラにおいても道路横に並木状に栽植されている例がみられる。エファーテにおいても集落近くで,おそらく屋根葺き材として利用するために葉が収穫されたと考えられる個体がみられる。従って,生育場所は必ずしも湿地ではない。 マラクラにおいては,現在もなおサイクロンなどで主要作物が被害を受けた場合には,natanguraの髄からサゴ(ヤシデンプン)を採取して利用する場合のあることが聞き取り調査により明らかになった。この場合のデンプン抽出は東南アジアのサゴヤシと同様であるが,調理方法はlap lap(プディング状)を作る際のタロイモ,ヤムイモあるいはバナナと同じように扱われる。しかし,サゴの利用は一般的でなく,最も広く利用されているのは屋根葺き材としてである。その他,近年ではnatangura jewelleryと称してパームアイボリー(胚乳)を工芸品の材料として利用している。
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