研究課題
本年度も、メンバーがそれぞれマレーシアおよびインドネシア、沖縄などのフィールドで野外調査を継続するとともに外分泌腺機能に関する実験をおこなった。主な結果は以下の通り。(1)これまでに各種のアリ類で防衛に機能しているであろう外分泌腺の存在が指摘されているが、分泌物質の生物検定が不十分であった。そこでアリ類を多数捕食することが我々の研究で明らかになったアマガエルが生物検定のモデル生物として利用できるかどうかを室内で実験した。その結果、アリの種類によってカエルの反応や捕食量が著しく異なり、今後の外分泌腺の生物検定に利用可能であることが示唆された。(2)後胸側板腺はアリだけに存在する外分泌腺で、病原菌からアリを保護する抗菌物質を生産することがしられている。トビイロケアリの巣には様々な昆虫寄生性の病原菌が存在し、これが女王死亡後も娘女王が巣を継承しない理由であると考えられるのだが、ここで娘女王の後胸側板腺が巣継承時の感染リスクを下げないか検討するため、この外分泌腺をエナメルで塞いだ若い女王を母巣の巣財とともに室内でロニー創設させた。結果、後胸側板腺コートは女王の感染による死亡率を上げないばかりか、くり返しによっては死亡率を下げるケースもみられた。これらの事実はこのアリに寄生する病原微生物には後胸側板線分泌物は効果的でないことを示ている。(3)トゲオオハリアリにおいて長鎖の体表炭化水素成分が女王物質として機能しているとの仮説を厳密に検証するため、一部の長鎖の体表炭化水素を合成し、アリに塗布し生物検定を試みたが、ポジティブな結果はまだ得られていない。(4)オス間で化学物質をもちいた闘争をするなど行動学的に興味深い現象をしめすハダカアリ属について、熱帯アジアを中心に多種を採集し分子系統樹を作成した。(5)従来報告がなかったアリの体表全体に分布する外分泌腺の構造を記載し発表した。
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