研究課題
基盤研究(B)
アリは他の昆虫類からは想像できないほど多種多様な外分泌腺を持ち、様々な化学物質を生産しているが、その外分泌腺物質の機能や分子構造が解明されているのはごくわずかである。本研究では、アジア熱帯・亜熱帯地域におけるアリ類の外分泌腺物質の機能を明らかにするとともに、長年議論されてきたが未だにその存在や物質的基盤が十分には解明されていない繁殖制御物質・警報防衛フェロモン・自己犠牲シグナル・抗菌物質などについて、その機能と化学構造の解明を目的に研究を実施した。おもな研究業結果は以下のとおり。1.数種のアリ類について、防衛物質を生産する外分泌腺の構造と機能について、実際の捕食者を用いて調査し、その機能を明らかにした。2.沖縄産トゲオオハリアリにおいて、卵巣を発達させた個体への攻撃による産卵前ワーカーポリシングが存在することを示した。体表物質がポリシングの鍵刺刺激である可能性を指摘した。3.社会性昆虫では一般に成虫の齢と繁殖をめぐる闘争の順位に相関があり、アリ類では若い個体ほど順位が高くなるのに対しカリバチ類では、逆に老齢個体の方が順位が高くなる。この現象について、生活史との関連から適応的な説明を与えるとともに、社会性昆虫が互いの余命を体表物質等でアセスしている可能性を指摘した。4.鳥やほ乳動物によって種子が散布される熱帯果樹の種子の生存に対するアリの影響を調査し、アリが果肉部をかじり取る際に何らかの抗菌物質を種子表面に塗り付けているらしいことが実験的に示された。5.アリ捕食者であるアマガエルをもちいた捕食実験を様々な種を対象に実施し、アリの種類によって捕食量が著しく異なることや、カエルは明らかに不味いアリを経験すると、それに外見が類似したアリや昆虫類を避けることが実験的に示された。これによって、アリ類の防衛物質の機能を生物検定する方法がほぼ確立された。
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