セミパラチンスクの被曝者様式は、慢性の外部及び内部被曝であり広島の被爆様式とはまったく異なっていることから、MDS、白血病など血液腫瘍の発生様式も異なっている可能性があるため調査研究を開始した。最近、物理学的あるいは生物学的線量測定法によりセミパラチンスク市の蓄積線量は50〜100cSv程度と高いことが明らかとなっている。共同研究者の所属するカザフスタン放射線医学環境研究所と連絡を取り、セミパラチンスク救急病院で新たに診断されたMDSおよび白血病のうち、大気圏核実験が行われた1949〜1963年の間に被曝を受けたと考えられる症例を中心に収集することとした。収集した症例についてのカルテのレビューと、標本の形態分類と遺伝子解析が進行中である。 我々は、原爆被爆者ではMDS発症のリスクが一般の固形腫瘍より高いことを最近明らかにしている。さらに遺伝子レベルでは、白血病関連遺伝子で造血幹細胞の増殖分化に重要な役割を果たしている転写因子AML1遺伝子の点突然変異を高率に見出し、かつこの変異は放射線誘発MDSでは、本遺伝子内のラントドメインに集中していることを明らかにしている。またMDSは数種類の遺伝子変異により発症すると考えられているが、AML1変異を有する症例に同時にみられる遺伝子の同定もすすめている。そこで、MDSと白血病の遺伝子レベルにおける原爆被爆者との比較を行い、被爆様式の違いによる異同を明らかにする予定である。
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