研究概要 |
コレラ菌および類縁のビブリオはインド亜大陸、特にガンジス河流域の水環境に定着して流行期には高率に検出されるが,非流行期には検出されず,自然界での消長に関してなお不明の点が多い。また,腸炎ビブリオに関しても,従来とは異なった03:K6による事例が頻発しており,環境中の病原ビブリオが,抑圧に対抗する手段を獲得して流行の輪を広げようとしている感がある。さらに,ビブリオ関連細菌であるエロモナスの下痢症も頻発している。従って,下痢症制圧にはビブリオ関連下痢原因細菌の性状,特に環境中での生態,病原遺伝子の伝達などを分子生物学的に明らかにしておく必要がある。本研究ではガンジス河口デルタ地帯で,患者あるいは環境由来のコレラ関連ビブリオの生態および分子疫学的検討を行って,インド亜大陸を中心にした地域での流行予測さらには下痢症制圧に寄与することを目的としており、本年はその予備段階の調査を行った。ダッカ、カルカッタにおいて環境水からV.choleraeを分離し、それら33株とそれぞれの地域の患者分離株50株と共にPCRにより病原性関連遺伝子の保有状況を調べた。また、NotIを使用したPFGE(pulsed-field gel electrophoresis)を行い、環境分離株・臨床分離株のgenetic fingerprintの比較から病原株の由来を探った。コレラ毒素CT(ctxA)、腸管付着因子であるとともにCTXΦの受容体として働くTCP(tcpA)、CTおよびTCPの発現調節因子であるToxR(toxR)の存在をPCRで調べた結果、ctxAは、環境分離および臨床分離の全てのO1/O139株から検出されたものの、nonO1/O139株からは検出されなかった。toxRは、O1/O139株、nonO1/O139株共に多くの株から検出された。本年は初年度であり、結論を得るに至っていないが、以上の病原性関連遺伝子の保有状況と合わせて、各株のPFGEによるgenetic fingerprintの比較を行ない解析を行っている。
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