研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリは開発途上国に生活するヒトの約80%が20歳前にして感染し、その後も持続感染している。また最近の疫学的研究から全世界の約半数の人々が感染し、胃炎、消化性潰瘍、および胃癌との関連が指摘さている。我々は、本菌の病原因子、とくに本菌に知られる唯一の蛋白毒素毒素である空胞化毒素(VacA)の病原性を明らかにするとともに、種々の疾患との開連およびVacAに大別される2つの毒素型(m1VacAとm2VacA)との関連を追究した。 我々は、先にRPTPβの遺伝子欠損マウスでは正常マウスで認められる胃炎や潰瘍が認められないことから、ヘリコバクター・ピロリが引き起こす胃炎・胃潰瘍に少なくともVacAが宿主の受容体RPTPβを介して関わることを明らかにした(Nature Genetics 33,375-381,2003)。 本邦、特に沖縄の胃炎および消化性潰瘍の患者から分離されたヘリコバクター・ピロリが産生するm2VacAの分子量をWestern Blotで比較すると、十二指腸潰瘍患者から分離された菌株が産生するm2VacAは他の患者から分離された菌が産生するm2VacAよりも分子量がわずかながら大きかった。このことは後者のm2VacAには前者のm2VacAが持つ一部の構造が共通して欠失していることが分かった。同様な傾向はフィリピン、セントルークス病院で分離された数株にも認められたことからさらに研究菌株数を増やして検討する必要が生じている。 一方、我々はかってm1VacAが酸やアルカリにさらされるとその毒性が増強することを報告した(J.Biol.Chem.274,36693-36699)。m2VacAにおいても酸やアルカリによる同様な活性化が認められた。しかもm2VacAの受容体認識、特に最近明らかにしたRPTPβ以外のVacA結合蛋白質であるRPTPαへの結合(J.Biol.Chem.278,19183-19189)において、RPTPαのもつ糖鎖認識に著しい違いのあることが判明した(投稿準備中)。こうした糖鎖修飾の違いがm1VacAとm2VacAの細胞特異性、しいては標的組織の違いに反映して疾患特異性を生み出すことにつながるのではないかと考えている。
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