研究概要 |
本研究グループが平成13年4月にネパール極西部ドティ県東北部の集落において150名の男性を無作為抽出し調査した結果、HIV、梅毒、B型肝炎の有病率はそれぞれ、7.4%,22.5%,66.5%と異常に高いことが判明した。この結果をうけて、本研究は、同地区で女性を含む大規模調査を実施し、KAP(知識・態度・行動)調査と血液検査の結果を解析することで、リスク要因を見出し、より有効なHIVを含む性感染症対策を構築する目的で当初計画された。しかしながら、平成13年11月末よりネパール全土で毛沢東主義を掲げたマオイストらの率いる反政府活動が激化し、ことに極西部での治安悪化は顕著であったため、計画変更を余技なくされた。 上述ドティ県の被験者の3分の2以上がインドなどにおける出稼ぎ労働を経験していたことから、同様に海外への出稼ぎ労働者が多く、ネパール国内にあって比較的HIV有病率が高いと報告されているポカラ行政区ならびにその周辺部において、妊婦を対象に調査を実施した。 調査の結果(n=426)、HIVおよび梅毒の有病率はそれぞれ0.2%と1.2%であった。被験者の3割以上の夫が海外出稼ぎ労働経験者であり、すべてが妊婦であるにもかかわらず、この有病率は本研究のきっかけとなったドティ県とは対照的に低いものであった。ドティ県では出稼ぎ先はすべてインドであったが、本研究地ではインドは3割以下であり、5割以上が中近東であった。平成15年5月に現地でワークショップをおこなった後、Key Informant Interviewを実施し、主な出稼ぎ先である中近東では、性感染症の有病率が低いことに加えて、外国人出稼ぎ労働者は外出の自由がなく、給料の未払いなどもあり、彼らが性産業にアクセスする機会がほとんどないことがわかった。 本研究は今年度で終了するが、今後の治安の回復をまち、調査員などの安全が確保され次第、出稼ぎ労働者の就労先における労働・生活環境(賃金の支払い状況、送金システム、外出の自由など)の点からリスク要因を探りたいと考えている。
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