1-ブロモプロパンによる新しい型の神経障害と感受性個体差に関する調査研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14406015
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 市原 学 名古屋大学, 大学院・医学系研究科, 助教授 (90252238)
• 研究分担者: 柴田 英治 名古屋大学, 医学部, 助教授 (90206128) ; 上島 通浩 名古屋大学, 大学院・医学系研究科, 講師 (80281070) ; 那須 民江 名古屋大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (10020794)
• キーワード: 1-ブロモプロパン / 神経伝導速度 / フロン代替溶剤 / F波 / 神経障害 / 振動覚

研究概要

1.中国江蘇省宜興市の1-BP製造工場に働く女性労働者27人(年齢37.8±7.05、身長159.8±6.44cm)を対象に、神経学的診察、頚骨神経の運動神経伝導速度と遠位潜時、F波伝導速度、腓腹神経の感覚神経伝導速度を測定した。健康診断は文書によるインフォームドコンセントを得て行った。運動神経伝導速度の測定時、近位側刺激部位は膝窩中央部、遠位側刺激部位は足関節内果後方とした。導出電極は母趾外転筋の近位刺激部位より11cmの部位に装着した。F波は足関節内果後方を刺激し母趾外転筋において導出した。感覚神経伝導速度は、腓腹筋のアキレス腱移行部において刺激し、外果の下(陰電極)から外果の少し前の外側縁(陽電極)の部位において導出した。対照群として同地域内のビール工場に働く女性(年齢35.8±5.83、身長158.6±6.0cm)に同じ検査を行った。1-BP工場と対照工場の労働者の比較では、年齢、身長に有意な差は見られなかった。27人の暴露された女性労働者の個人暴露量(8時間の時間加重平均)は0.3-49.2ppm、幾何平均2.52ppmであった。その27の中で17人に足先の振動覚の低下が見られた。非暴露対照との比較では、運動神経伝導速度(頚骨神経)には変化がなかった。しかし、遠位潜時(頚骨神経)の有意な延長、F波伝導速度の有意な低下、感覚伝導速度(腓腹神経)の有意な低下が1-BP暴露労働者で見られた。平均50ppm前後またはそれ以下の1-BP暴露によって、神経障害が引き起こされる可能性が示唆された。
2.労働者29人を対象に2回のシフト(各12時間)に渡って装着したパッシブサンプラーによって個人曝露量を推定した。同時に作業終了時の尿を採取し、ラット尿と同様の方法にて分析を行い、尿中N-Acetyl-S-propylcysteine濃度の個人曝露量に対する回帰分析を行った。労働者の尿中N-Acetyl-S-propylcysteine濃度は1-BP曝露量との間に有意な関連性を示した。

研究成果

• [文献書誌] Ichihara G et al.: "Neurological disordens in three workers exposed to 1-bromopropane"Journal of Occupational Health. 44. 1-7 (2002)
• [文献書誌] Wang H et al.: "Biochemical changes in the central nerrous system of rats exposed to 1-bromopropane for seven days"Toxicological Sciences. 67. 114-120 (2002)
• [文献書誌] Wang H et al.: "Dose-dependent biochemical changes in rat central merrous system after 12 week exposure to 1-bromopropane"Neurotoxicology. 24. 199-206 (2002)
• [文献書誌] Yamada T et al.: "Exposure to 1-bromopropane canses ovarian dysfunction in rats"Toxicological Sciences. 71. 96-103 (2003)
• [文献書誌] 市原 学: "有機溶剤中毒"総合臨牀. 51. 768-773 (2002)
• [文献書誌] 市原 学: "毒性学入門"産業衛生学雑誌. 44. 70-71 (2002)
• [文献書誌] Nakajima T et al.: "Functional activation of peroxi some proliferator-activated receptor α (PPARα) byenrironmental chemicals in relation to their toxicities"Nagoya Journal of Medical Sciences. 65. 85-94 (2002)
• [文献書誌] Nakajima T et al.: "Generalized skin reactions in relation to trichle roethrlene exposure : A review from the viswpoint of drug-metabolizing enzymes"Journal of Occupational Health. 45. 8-14 (2003)
• [文献書誌] 久永 直見: "トリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレンに暴露された労働者に発生する急性肝炎を伴うスチーブンス・ジョンソン症候群"産業衛生学雑誌. 44. 33-49 (2002)
• [文献書誌] Takagi A. et al.: "Involvement of caspase 3 mediated apoptosis in hematopuietic cytotoxicity of metabolites of ethylene glycol monomethrl ether"Industrial Health. 40. 371-374 (2002)