研究概要 |
本研究では,高解像度衛星画像データの熱帯感染症研究への応用可能性について検証を行った.ザンジバルの対象集団バンダマジにおける研究開始時の虫卵陽性率は50.3%(男性:62.6%,女性39.4%)であり、虫卵陽性率は6-18歳の70.7%(男性83.3,女性58.2)を頂点として徐々に低下した.住民の知識レベルは非常に高く,それが安全水の利用を促進していたが,一方で住民は危険を認識していながら感染リスク水と接触していた.感染原因として最も重要なのは,男性の「農具・自転車洗い」及び「漁撈」,女性の「洗濯」であった.これらの行動は,リスク水との接触頻度は低いものの接触時間及び接触体表面積の大きいことが特徴であり,実際に直接観察においてもこのことが裏付けられた。 高解像度衛星画像データの応用可能性について検証した結果からは、以下のような結論が得られた:(1)水場は教師付き分類にNDVI値を組み合わせることでほぼ特定が可能であった.(2)パンシャープン画像を用いることで土地被覆状況を詳細に把握できるだけでなく,例えば人口推定などにもある程度応用可能であると考えられた.(3)人の行動を画像データ上の水場との位置関係において把握でき,実距離(直線距離ではなく)による分析可能性が提示された.(4)地図の代替としての利用可能性が高く,DEMが利用可能であれば冠水するエリア推定なども可能であった.しかし,(5)衛星画像データの入手性に問題があり,一年以上入手できない場合があることが示された.これは,フィールドにおける疫学調査も平行して進行している場合には,致命的な問題となる可能性があることを意味する.高解像度衛星画像データは,入手性に問題がなければ,これまで利用不可能であった詳細な情報をもたらすことから、特にこれから調査研究を始める未知の調査地において最もその効果を発揮すると考えられた.
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