【目的】 平成14年から16年にかけ、グアテマラ共和国サンチアゴ・アティトランで、内戦で夫や子どもを殺害された先住民女性の自助グループIXMUCANE(構成員290名)を対象に、PTSDの文化依存的側面、及び、基本障害に対応する生理学的研究を目的とした調査を実施した。 【調査方法・結果】 1.計35名を家庭訪問しDSM-IVの診断基準による精神医学的診断を実施した。全員がトラウマによる急性驚愕・恐怖体験をスストと捉え、また抑うつ症状を基盤とする多彩な症状を有していた。 2.ZungのSDSテストを用い、52名に抑うつ度検査を実施した。また、任意に選んだ30名を対象に精神医学的診断を実施した結果、PTSDの症状を有する3名のSDS得点は40ポイント以上あり、SDSはPTSDのスクリーニングテストとして有効と考えられた。 3.外傷的出来事を想起時の生理学的変化を、多機能生態記録装置(ポリメイト・TEAC電子計測)を用いECG、EEG等を検査し分析した。 1)33名をDSM-IVの診断基準に基づきPTSD群(N=8)と非PTSD群(N=25)に分け、心拍のパワースペクトラム解析(PSA)を実施した。PTSDと安静時のLFパワーの高さ、回想刺激後のLFパワーの反応性の低さが関係深いこと、特に、外傷的事件の再体験と生理学的反応を伴った強い心理的苦痛との高い相関牲を示唆した。 2)脳波において、DSM-IVの診断基準のC項目に注目し分析した結果、PTSD群ではF3において刺激前のβ周波数帯域の%パワー値は、非PTSD群より優位に高く、覚醒水準の高さを反映していると考えられた。また、PTSD群では刺激前後のβ周波数帯域の%パワー値はF3において減少し、O1において変化が見られなかった。この変化はC項目(外傷に関連した刺激からの回避、または反応性の麻痺や無感覚)に特異的な反応である可能が考えられた。
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