今年度は、主にハイデガーにおける非現前への対応を静態的かつ動態的に跡づけるいわば内在的・歴史学的研究をおこなった。そのさい、ハイデガーの講義録や著作を丹念に読み解くことによって、また内外の数々の研究書、研究論文(Poggeler、Gadamer、Volpi、Kisiel、van Buren、Taminiaux等々)を参照した。その結果、恒常的現前性という存在理念の摘出と解体という視点から<存在と時間>という問題設定の生成と変容を解析し、それをとおして現前しないことへの応答の構図を通時的・共時的に描き出すことができた。 そのために、ハイデガーの思索の道程を彼自身の発言にもとづいておよそ四期に区切り、それぞれの(ア)<存在と時間>を(イ)非現前および非現前への対応を、明らかにした。 四期とは(i)『存在と時間』期以前(とくに1919年〜22年頃)、(ii)存在を意味として投企した『存在と時間』期(23年〜20年代末、とくに『ソピステース』講義における現前と非現前の交叉は注目に値する)、(iii)存在の歴史を問うた時期(30年代から40年代前半)、(iv)明るみを問うた「存在の場所論」の時期(40年代後半以降)である。 四期のなかでも、鍵となる時期として研究の重点となったのは(ii)である。ハイデガーは(i)を受けて、プラトンやアリストテレスの哲学の解釈をとおして、次いでカント哲学の読解を介して、<存在と時間>の問いを発見しまた有限でかつ無限な主観性(生)に依拠してこの問いに迫ったが、しかし、それは「存在論的創造」に挑むものであるがゆえに、現前しないで存在することへの応答としては不十分であり、(iii)以後への移行を要求されることが解明された。
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