研究課題
基盤研究(C)
現在的な知覚、過去的な想起、未来的な予期という、われわれの経験にかかわる三つの意識様態のうち、しばしばもっとも基礎的なものと見なされるのは知覚である。知覚がなければ想起や予期が成立しないという意味で、知覚の方が根源的だと思われるからであり、知覚によって与えられる経験と、想起や予期によって与えられる経験とを比べてみると、知覚経験の方が明証的であるように感じられるからである。本研究の目的は、こうした知覚のあり方について現象学が行なった主張を、19世紀後半から20世紀に提唱された知覚論と照らし合わせ、21世紀における議論の文脈に置き直すことにあった。そのためには、以下の3点から知覚論の諸タイプを整理した上で、現象学的な知覚論を、知覚の論理地図のうちに位置づけることが必要であった。第一に、知覚の本性にかんする伝統的な説明の基本タイプを、(1)物理的世界の形而上学的な基底性を認める(実在論)か否(非実在論)か、(2)知覚アクセスが直接的であると考える(直接性)か否(媒介性)かに応じて、(1)直接的実在論、(2)間接的実在論、(3)観念論の3つの立場に分類し、その基本特徴を抽出すること。第二に、知覚にかんする現代的な解釈の争点を、まず(I)表象主義VS.反表象主義、という対立軸のうちに見出し、20世紀においてそうした立場を代表するものとして、計算主義やコネクショニズムにおける表象主義的な知覚論と、ギブソンの生態学的心理学に見られる反表象主義的な知覚論とを、比較検討すること。第三に、知覚をめぐる解釈のもう一つの争点を、(II)実在論vs.観念論、という対立軸のうちに求め、実在論的な知覚論(直接的実在論、間接的実在論)とは対照的な、非実在論的な知覚論(観念論)のヴァリエーションを吟味すること。以上3つの観点から、知覚をめぐる論理地図を描き出し、そこに、フッサールらの知覚論を位置づけることにより、現象学における知覚理解が、狭義の観念論とは異なる新たな知覚論として、知覚のシステム的なあり方を強調する特徴をもっている、という事態を確認することが可能になった。こうした研究成果の一部は「知覚というシステム-現象学と知覚論-」(長滝祥司編『現象学と21世紀の知』(ナカニシヤ出版)第3章)として刊行された。
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モラリア(東北倫理学研究会) 第11号
ページ: 1-31
MORALIA No.11
Phenomenology and Knowledge in 21th Century(Nagataki, S.(eds.))(Nakanishiya Syuppan)
ページ: 58-84