相互作用主義の観点から認知における表象の役割を研究し、その結果、次のような成果が得られた。(1)認知には、表象を必要とするものとそうでないものとがあり、表象を必要としない認知では、主体と環境のあいだに力学的過程として記述するのがふさわしい非常に密接な相互作用がある。それにたいし、表象を必要とする認知では、表象の変形として記述するのがふさわしい過程や外界からの刺激を一定の内的状態に収束させる過程が含まれる。(2)表象には、構文論的構造を有して無数に多くの表象を形成できる記号的表象、および表象される事物が喚起するのと類似の知覚を喚起する絵画的表象、さらに複合的事象をその構成要素に分解することなく全体論的に表す分散表象の少なくとも3種類が認められる。(3)主体と環境の間の相互作用のうち、知覚や歩行などの比較的低次のものは分散表象によって可能となり、計画や推論の過程を含む比較的高次のものは記号的表象によって可能となる。また、絵画的表象は、表象される事物が喚起するのと似たような知覚を喚起することにより、擬似的な知覚経験を可能にする。(4)思考は記号的表象を含むのにたいし、知覚は分散表象を含む。それゆえ思考は合理的な推論を可能にする概念的内容をもつのにたいし、知覚はそうではない非概念的内容をもつ。その結果、知覚は思考の理由になりえないが、それでも、知覚が正しいときに、その知覚によって引き起こされる思考が真となるという意味で、知覚は思考を正当化しうる。(5)視覚、聴覚、触覚などの異なる感覚様相は異なるタイプの表象を用いて外界の事物を表象する。それゆえモリヌークス問題への答は否定的となる。しかし、異なる感覚様相の表象が同じ事物を表すとき、それらは同じ一つの概念のもとにまとめられる傾向があり、この傾向性のゆえに客観的な世界の単一性が概念的に確保される。
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