平成16年度は、本研究の最終年にあたり、過去二年間にわたって調査を行なってきた資料の整理と今後の研究への展望を兼ねて、論文と資料集を作成し、それを「成果報告書」としてまとめた。もともと本研究の目的は、従来看過されてきた19世紀中半から後半にかけてのフランスにおける哲学の歴史と制度化を、ドイツ哲学の受容という視座を捉えた上で、多くの既存の哲学史におけるように、偉大な哲学者とその概念の変遷を追うというよりも、むしろ思想史の文脈から知の変遷を明らかにしようという試みである。 とくに七月王政期前後におけるV.クーザンによるドイツ哲学の受容は広範囲に影響を及ぼしている。哲学のみならずそれを支える教員養成を含む教育体制全般が遅れていることを嘆き、クーザン自身がプロシアに調査旅行に出かけ、膨大な報告書を書き、やがてギゾー法として結実する。そのプロセスは、様々なかたちでの哲学の制度化・国制化-バカロレア制度や教員養成、教育法といった教育体制、アカデミー、宗教界との抗争といった社会的背景と絡み、それらを抜きにしては語れない。こうした経緯を、当時のテクストを精査に調査し、公認哲学および哲学史成立のプロセスを明らかにした。 ただし、1848年革命以降の共和制、とくに70年代の普仏戦争をめぐる状況にはほとんど触れられず、今後の更なる研究に委ねたい。 なお、飛嶋隆信氏の研究協力を得て、美術・美学界の制度化も付すことができ、19世紀フランスにおける、より広範な知の制度化に関する状況が明らかになったことをつけ加えておく。
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