1 今日なお科学および哲学において真理発見のための重要な役割を果たしている仮設・仮説(hypothesis)による探求法について、この語が最初に用いられた古代ギリシアの医学、数学、哲学の現場の状況を文献読解を通して確認する作業を進め、いくつかの発表を行なったのに加え、今後も発表を継続する予定である。 2 医学においては、ヒッポクラテス『古来の医術について』で、熱・冷・湿・乾などの自分勝手な「仮設」を立て、諸々の病気や死を同一の原理によって説明しようとする人々が、真偽の知りえない空しい仮設を立てる者として批判の対象とされている。こうした経験主義の伝統は、古代懐疑主義が仮設使用を攻撃する立場に受け継がれる。特にその点は、セクストス・エンペイリコス『学者たちへの論駁』第3巻における幾何学者の仮設使用に対する批判において顕著であり、この部分を含む第1〜6巻の翻訳作業を進めた(今年中に出版予定)。 3 幾何学においては、プラトン、アリストテレス、ユークリッドの仮設使用の比較を行なった。しばしば後二者の仮設使用は、プラトンのそれとは異なるかのように解釈されているが、むしろ「仮設」の基本的役割には相違ないことを、2003年3月北海道大学文学研究科主催、PHILETH共催シンポジウム「アリストテレス哲学の形成と展開」において「プラトン・アリストテレス・幾何学・懐疑主義における仮設使用の比較」として発表した。 4 その他、プラトン『パイドン』の仮設使用については、仮設法を広くロゴスの中での探求方法の枠組の中で捉え、同箇所のロゴス及び仮設が、「単純命題」の形で考えられていることを、論文「プラトン『パイドン』におけるlogoiのなかでの探求」(11.研究発表を参照)の中で論じた。
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