1.『確実性について』に登場するいわゆる「世界像命題」について、いわば「トーンダウン」した評価をすべきことが文献学的検討から明かとなった。このことについて科学基礎論学会(平成15年6月14日東北大学)で口頭発表し、さらに大阪大学人間科学研究科紀要で論文として公表した。 2.鬼界彰夫氏の近著『ウィトゲンシュタインはこう考えた』(講談社現代新書2003)の最終章に見出される『確実性について』の「私は知っている」という表現に関する見解が、文献学的根拠に乏しいことについて、日本科学哲学会(平成15年11月16日千葉工業大学)で「ウィトゲンシュタインは主知主義的独我論者として死んだか」と題して口頭発表した。 3.『断片』に収録されている覚え書きとそれらの元原稿との対照関係を再度吟味した。その結果、『断片』の編集には大きな問題があるが、覚え書きの内容には第一次的なものが含まれていることを確認した。ここで得られた知見はさらに整理をした上で、平成16年8月の国際ウィトゲンシュタイン・シンポジウムで発表する予定である。 4.中期の遺稿に散見する「メタロジカル」という表現については若干の論者が注目しているが、この概念の射程について文献学的な結論が得られた。これについては平成16年6月の科学基礎論学会で報告予定である。 5.上記の研究と並行して、平成15年10月にベルゲン大学ウィトゲンシュタイン・アーカイブズを訪問し、Alois Pichler所長と意見を交換した。その折に、10月17日に"How to make and not to make use of the Wittgenstein Nachlass"と題する講演を行った。
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