研究概要 |
1.2000年に完成したウィトゲンシュタインの遺稿のデータベース(WAB/OUP Edition)を駆使した文献学的研究に基づくことにより、ウィトゲンシュタイン哲学について多くの新たな知見をもたらしうることを示すことが本研究の目標であった。成果は以下の通りである。 2.『数学の基礎』に含まれる覚え書きをその元原稿に戻り精査することによって、『数学の基礎』の編集が幾つかの点で恣意的であることを指摘した。即ち、十分な研究のためにはNachlass自身にあたる必要がある。このことについて、第24回国際ウィトゲンシュタインシンポジウムの招待原稿を推敲して、Proceedingsに寄稿した。 3.『確実性について』でもっとも有名なトピックである「世界像命題」に関する覚え書きを検討し、ウィトゲンシュタイン対クワインという図式が必ずしも適切ではないことを明らかにした。 4.「メタロジカル」という表現が登場する覚え書きを網羅的に検討し、ヒルミーの大胆な主張が採りえないことを示した。また、「メタロジカル」はむしろカントの「超越論的論理学」との類推で考えるべきことを指摘した。 5.『断片』を構成する覚え書きのルーツを辿り、編集上に大きな問題があること、しかし、いち早く出版された歴史的意義は大きかったことを明らかにした。この過程で、TS228,TS230という流れで『哲学探究』第1部の原稿が作成された、とするフォン・ライトに由来する通説がミスリーディングであることを明らかにした。 6.TS228とTS233の覚え書きのルーツに関する対照表をそれぞれ作成し、報告書に収録して国際的に公開することとした。
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