15年度は、ライプニッツの認識論が含意する実在論の解明を行った。公表された成果は大きく二つある。まず第一は、これまでの成果をまとめるものとして、15年度日本学術振興会、科学研究費補助金、研究成果公開促進費により『ライプニッツの認識論-懐疑主義との対決-』を出版する中、その第五章、第十五節「モナドロジックな『実在論』」でライプニッツの認識論を「パースペクティヴィズム」と「プラグマティズム」とを包摂する独特の実在論として特徴づけた点である。「モナドロジー」は、相対主義に対しては認識を世界の多様な「表現」として位置づける一方、真理根拠の無差別を主張するピュロニズムによる根拠づけへの懐疑に対しては、認識を支える「適合性」としての充足根拠の外在主義的側面を容認する決定論的側面をもつことを際立てることができた。二側面は「完全性の順序」ないし連続主義の構想のもと「実在論」のうちに位置づけられる。 第二は、15年9月、連合王国リバプール大学でのイギリス哲学史学会、「Leibniz and English Speaking World」における発表'Leibniz's "Realism" in its contrast to Berkley's Principles'に関わる。これは、しばしばより観念論的になったとされる晩年のライプニッツが、『人知原理論』に関するノートや同じ時期の「実体的紐帯」に関するデ・ボスとの往復書簡などで実はバークリィによる物体の独立存在否定を拒否したことに注目して、その認識論の実在論的意義を解明するものであった。今後は、著書で残された、時間と空間の問題を含む数学的対象の認識論と存在論の問題を検討するとともに、ライプニッツ独特の連続主義的な実在論が現代の認識論と実在論の諸議論の中でどう位置づけることができるかを検討していきたいと考えている。
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