本年度において、おおよそフィヒテ『全知識学の基礎』(1794年)の研究を終えた。とりわけ、前期知識学における「自我の存在構造」と「努力」概念を解明しえた。 前者については『フィヒテの三原則と自我』として発表した。後者については、平成十五年度発表予定である。(学位論文の中に収めたので、単行本として発表する予定である) なお、前者に関わることであるが、『フィヒテの三原則と自我』の知見に基づいて、ヘーゲル研究会(2002.12.22、法政大学)でのシンポジウム、「フィヒテとヘーゲル」においてパネラーとして提題を行った。その題目は「フィヒテのヘーゲル批判」であった。ヘーゲルのフィヒテ批判は哲学史上周知のことであるが、逆の批判も成立しうることを明らかにしたことが、この発表の重要なところである。一般的には馴染みのないこのフィヒテの立場からのヘーゲル批判は、フィヒテ自身によってはまずシェリング批判として現れるのであるが、その批判がイエナ前期のヘーゲルにも通用することを、フィヒテ研究者であるギルントやラウトを通して明らかにした。フィヒテの立場からのシェリングやヘーゲルに対する批判は、Reflexion(反省)を自我や絶対者の必然として捉えきれていないところである。ヘーゲル哲学の発展はこの批判を克服していくところにあると言えるだろう。
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