下記に示すように、これまでの研究の成果を『ヘーゲル哲学体系への胎動-フィヒテからヘーゲルへ』(ナカニシヤ出版、全330頁)として出版した。この著作の概要を示すことによって研究実績の概要としたい。この著作は、ヘーゲル哲学の原理に関わる部分においてフィヒテ哲学の強い影響が見られるという想定の下、イエナ期ヘーゲルの哲学体系確立への過程をフィヒテ哲学、とりわけ『全知識学の基礎』の原理との関わりの中で考察した。また、本書ではヘーゲルがフィヒテ哲学を受容することなしには、批判的超克1も不可能であったことの論証も行った。 序章で上のような筆者の立場の可能性を、ヘーゲル没後のドイツを中心とした哲学史の中に探求し、これを論証した後で、本論に入った。紙数の制限上本論の最初の三つの章は簡単に要約しておきたい。これらの章では、フィヒテとシェリング、フィヒテとヘーゲルの関係、とりわけ後者を詳細に論じた。この作業を通して、イエナ初期のヘーゲルは「反省」の重要性を認識しつつも、反省を「哲学的思惟の道具」として絶対者の「外」に置いていたことを明らかにした。 IV章では、(1)イエナ中・後期におけるヘーゲル政治哲学上の変化と、(2)「精神哲学」や「論理学」講義草稿などで打ち出されるヘーゲル哲学の新基軸を明らかにした。(2)について以下で箇条書きしたい。i)体系構成上の変化、すなわち精神哲学を自然哲学より上位に置く。ii)精神をイデーとして捉え、絶対者を「精神」となす。iii)「意職」(反省)を「精神の概念」となす。ヘーゲルが絶対者を精神となし、意職を精神の概念と把握するのであれば、ヘーゲヘルの絶対者は反省を「区別根拠」として捉える地平に立っている。ここに反省を自己定立の制約と考えるフィヒテ自我論のヘーゲルによる受容を確認できる。そして、終章においてヘーゲル哲学のこのような進展が、イエナ後期の「根拠律」の思想として結実することを明らかにした。 以上でヘーゲル哲学形成におけるフィヒテとの関係は解明しえたと言える。残された一年間はこのような解明の残務整理ということになろう。しかし、この残務整理はドイツ観念論を過去の問題として捉えるのではなく、現代の諸問題を考察する場合にも、ドイツ観念論の提示している問題が現代でもなお有効であることを示すことになろう。
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