研究課題「ドイツ観念論再構築に向けた地盤形成的研究」は、最終目的のための「基礎的予備的研究」として、フィヒテ哲学とヘーゲル哲学の関係を見直すことであった。この研究は筆者が長年にわたって取り組んできたテーマであったので、予定の三年目を待たずにおおよそ二年で一応の成果を得た。この成果を踏まえて哲学史的に現代を概観すると、現代の諸問題はカント・フィヒテ的なるものと、シェリング・ヘーゲル的なるものどの相克という観点から捉えることができる。このような哲学史を踏まえて生命や環境という現代の諸問題に積極的に取り組んでいるのが、ドイツの実践的自然哲学である。筆者は二年間の成果を踏まえて、三年目(平成十六年度)は実践的自然哲学研究へと研究を進めていくことを昨年度の報告および今年度の計画で明らかにし、承認された。 以上のことから分かるように、今年度はドイツ実践的自然哲学の研究に踏み出した。とりわけ、実践的自然哲学派の中心人物であるマイヤー・アービッヒの研究に取り組んだ。この研究は彼の主著『自然との和解への道』(Wege zum Frieden mit der Natur)の翻訳とともに始まった。この本は現在印刷中であり、五月発売予定である。この本におけるアービッヒの哲学を簡単に要約しよう。アービッヒは哲学的にはスピノザ・シェリングの立場に立つディープ・エコロジストである。だが、ディープ・エコロジーのように人間を悪しき「自然外存在」として排除するのではなく、人間を自然の現れ、「自然の駆動力」として捉え、人間の「自然史への寄与」を評価する。ここに新たな可能性が開かれる。このような立場は政治哲学と結びつき、大きな成果を得ることになろう。
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