この研究の最終目的として設定されたのは「カントからフィヒテ、シェリングを経てヘーゲルにおいて完成されるというドイツ観念論の定説を見直し、新たなドイツ観念論史観を再構築する」ことであった。これに伴って設定されたこの研究の実際の目的は、最終目的のための「基礎的予備的研究」として、フィヒテ哲学とヘーゲル哲学の関係を見直すことであった。この研究は筆者が長年にわたって取り組んでいたテーマであったために、予定の三年目を待たずに、おおよそ二年で一応の成果を得た。これらの研究の中(特に主著『ヘーゲル哲学体系への胎動』)で、筆者はドイツ観念論が決して直線的な発展ではなく、例えばヘーゲル哲学がフィヒテの「主観性の哲学」を導入することなしには成立し得なかったような、いわば逆の影響関係もあることを解明した。このような観点を『全知識学の基礎』のフィヒテとイエナ期ヘーゲルとの比較研究(上述の主著)を通じて分析し析出していったわけであるが、上記のようなフィヒテとヘーゲルの新たな関係が、哲学史的にはいかなる意味を持っているかを主著の序章で簡単に触れた。筆者が序章で「ドイツ観念論一般の継続の可能性」として論じたのは、ヘーゲル以後、新カント主義、さらに新ヘーゲル主義と相克しながら連綿と続くドイツの哲学史である。このような哲学史的観点から現代を捉えなおすと、現代は一般に流布されているような「ポストモダン」ではなく、カント・フィヒテ的なるものとシェリング・ヘーゲル的なるものとの、現代という状況の下での相克ということになろう。こうした対立が現代の環境を巡る論争においては、人間中心主義と自然中心主義、個の思想と全体の思想の対立として現象しているのだと、筆者は理解するものである。この対立する観点が「実践的自然哲学」においても焦点になり、議論の対象となる。従って、筆者はすでに平成十六年度から、これまでの研究の発展として「実践的自然哲学」の方に研究を拡大していくことを学術振興会に申請し、それが承認されて補助金を受けた。
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