フッサールの『論理学研究』第1研究「表現と意味」に関して、特に直示詞の機能に焦点を当てて研究し、その成果を国際フッサール研究会の機関誌に掲載した。(『フッサール研究』創刊号pp.15-23) その研究によれば、フッサールの表現と意味の理論においては、「これ」、「ここ」、「いま」、「わたし」といった直示詞の機能に関して混乱があるとし、言語表現において直示的表現の偶因性を排除したからといって、必ずしも言語表現の普遍性が確保されるというわけではなく、問題は、個々の実質的意味内容が普遍的探究対象性を表現しているか否かであること示した。また、直示詞は、「意味」を持たないとしたが、フッサールはそれらが何らかの機能を持っていると言うことを示唆していることを明らかにした。それは、フレーゲの直示詞を巡る議論をフッサールの理論と比較検討することにより、解明した。フッサールとフレーゲは、意味の普遍性を主張するのであるが、その主張に至る道筋は全く対照的である。つまり、フッサールの場合、言語のコミュニケーション機能を排除するという方向で普遍性を確保しようとするのに対して、フレーゲは言語表現が複数主観間において伝達可能であるという点に、まさにその普遍性の必然性を見いだすのである。 また、今年度の研究では、直示詞に焦点が当たったので、言語学者としては、Buhler、Fillmore、Jakobson、Russellらの指示詞、偶因的表現に関する理論を研究した。 さらに活動としては、認知言語学者の山梨教授との討論によって、上述の論点を確認し、認知言語学的視点からのdeixisの理論を摂取した。
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