研究概要 |
この3年間の本研究の成果としては、認知言語学、とくにRonald W.Langacker, George Lakoff, Mark Johnsonらの認知言語学の理論の哲学的意義の検討をまず行った。それは、報告書内の研究成果p.1〜p.15に結実している。基本的には、フッサールの現象学の言語論を背景としつつ、言語研究の分野に認知論的視点をどう導入するかに関して、現象学と認知言語学との方法論上の比較ととくに認知言語学の根本的概念の検討を行った。さらに、ヨーロッパ哲学において基本的な概念である「実体」(substance)と「個体」(Individuum)という二つの概念を巡ってアリストテレスの形而上学まで遡り、ousiaという概念がどのような意味合いで使用され、それがtode tiという概念とどう連関するかを確認し、それがアウグスチヌスにおいてessentiaと同義になる経過を追い、存在と個体の論理的連関を概念史の視点から明らかにした。そして、この分析に際しては、極力概念図式を使用し、わかりやすく提示した。また、研究成果のp.40〜55では、現象学者フッサールの著作『論理学研究』の第一研究での直示詞の機能に関する理論を検討し、これまでネガティヴにしか論じられることはなかった指示機能の本質に関する研究で、これも指示詞というカテゴリーがどのようにして「意味機能」ではなく、指示機能という意味で意味性を保持するか、明らかにした。また、p.56から収録されている「情報とコミュニケーション」では、コミュニケーション行為は利害関心に左右される計算主義な戦略的行為とは違う独自の合理性を保持していて、根底にはコミュニケーション主体としての相互承認があることを明らかにした。
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