研究概要 |
西洋哲学史における決疑論という手法の現代倫理学への応用の研究の一環として、本年度は、工学倫理ないし技術者倫理における事例分析の考察と、決疑論の歴史についての調査を行った。具体的な成果としては、平成14年度11月29日発行の『技術者倫理の世界』(藤本温編著、森北出版)の第8章において、トマス・アクィナスによる「虚言」の分析を通して、決疑論の歴史を簡単に紹介し、その手法の有効性と限界について考察した。そして、工学倫理の事例分析を、実際に学生に行わせた結果を同書において報告した。また、平成15年2月に行われた第10回産学官交流会(於:佐世保市、アイトワ)において「日本における『技術者倫理』の現状と課題について」という題名の基調講演の中で、応用倫理学の一分野としての技術者倫理ないし工学倫理の最近の動向を紹介した。今後は、技術者倫理のみならず、生命倫理の分野への決疑論の応用についても考えてゆきたい。 決疑論の歴史的研究としては、今年度の研究費で購入した文献・資料等の読解を通して、キケロの時代からパスカルの時代までのおおまかな流れを理解できた。その成果は、次年度に公にする予定である。また、決疑論における「意図」(intention)の問題と関わりのある「志向性」(intentionality)の問題の背景を、論文「Aquinas on Intentionality, Spirituality and Immateriality」『佐世保工業高等専門学校研究報告』第39号において論じた。
|