研究概要 |
本年度,研究代表者は,まず本研究全体の見通しをつけるために,シャバラによる『ミーマーンサースートラ』註の第3巻全体の各節で,「配属」による祭式構成要素の階層化をめぐって,どのような聖典解釈上の問題が扱われているのかを要約した。その際に,研究代表者は,研究分担者と討議を重ねて,聖典解釈学派が樹立した「階層化のための解釈原則」の適用にみられる,ヴェーダ祭式論,仏教に対抗する弁証論,および法典解釈への応用法という諸側面を検討した。これらの基礎的資料に基づいて,研究代表者は,祭式構成要素の階層化を支える基本前提についての研究発表をおこなった。北海道印度哲学仏教学会の学術大会(7月・苫小牧駒澤大学)では,定期祭により天界とは別の果報がもたらされることが上記の規定文から理解されてくる根拠として,上記規定文が,「天界を望む者は祭式すべし」とは独立の教令であることを聖典解釈学派がどのように論証するかを発表した。さらに研究代表者は,インド思想史学会の研究集会(12月・京都大学)において,クマーリラが,復註の第2巻において、祭式文献を読む読者個人の意識を支えるものとして,二つの次元を想定していることを発表した。二つの次元とは,クマーリラ以前から聖典解釈学派で意識されていた,テキストを読み進むにつれ既有知識をもとに新規知識を拡大していくテキスト認識の次元と,クマーリラが新たに導入した,行為の前提となる所与の状況設定と目的達成のために行使する手段との対比による,個人の実践にかかわる次元である。この二つの次元を著す座標軸を設定することによって,読者意識の中で様々な規定文を階層的に配列することが可能となる。この研究発表により,祭式構成要素のうちでの目的と手段の関係を確定するための解釈基準の検討が,クマーリラの復註では,『ミーマーンサースートラ』の第3巻以前の第2巻に既に予備的考察として為されていることが判明した。
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