研究概要 |
本年度,研究代表者は,昨年度作成した,シャバラスヴァーミンによる『ミーマーンサースートラ』註の第3巻全体の分析的梗概を,研究分担者との討議を重ねつつ更に増補した。その際,宗教における階層的秩序に関する資料を,国内各地の大学への出張及びインターネットなどの各種メディアを通じて収集した。研究代表者は特に,第3巻第1章第7論題に着目し,第12回国際サンスクリット会議(平成15年7月ヘルシンキ)に出席し,クマーリラが本論題において,古代インド社会では口伝で伝承されていた音声テキストであるヴェーダを,虚空において「最高我」が宿る身体であるとし,この独特なヴェーダ観が彼のヴェーダーンタ思想の重要な構成要素になることを発表した。このヴェーダ観によって,ミーマーンサー学派ではヴェーダは何者によっても創作されたのではない天啓聖典であるとするにも拘わらず,文に意図が込められているならその意図を抱く精神的主体がいるはずだという前提に基づき,ヴェーダの文が何を意図しているかを問い,その文を文脈の中で階層化していくことが可能になる。論文"Kumarila on the Dual Aspects of the Reader's Consciousness"は,テキストを読み進むにつれ既有知識をもとに新規知識を拡大していくテキスト認識の次元と,個人の実践にかかわる次元の二つの次元を表す座標軸を設定することによって,読者意識の中で様々な規定文を階層的に配列することが可能となることを明らかにした。論文「ミーマーンサー聖典解釈から見た定期祭挙行の両義性について」は,新月満月祭などの基本的祭式が天界到達という目的実現のための手段であるのみならず,アーリア人家長に生涯に渡って課せられた義務でもあるのは,規定文「生きている限り祭式すべし」が独立の教令であり,教令「天界を望む者は祭式すべし」の下位に配列される従属的規定ではないことによるのを明らかにした。
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