本年度は、すでに和訳の草稿のある『ジュニャーネーシュヴァリー』四章の出版準備に力を主に注いだ。その結果、第四章の和訳は完成したのだが、その発表先として考えていた『マハーラーシュトラ』第8号が残念ながら本年度は原稿不足で休刊となり、発表することはできなかった。 その代わりに、本年度は、二つの本を発刊することができた。一つは、『シャンカラ』(人と思想179)清水書院(全254頁)であり、これは、インド思想上極めて正統的と考えられているシャンカラ系統の思想のなかにも、バクティとタントラが絡み合っている点を明らかにしたものである。 もう一つは、訳書『スリランカの仏教』法蔵館(全734頁)であり、本書の中では、仏教国と考えられているスリランカの上座仏教の場合ですら、スリランカ独立以降の宗教変容の中で、バクティとタントラが上座仏教の変容に大きな影響を与えていることが明らかにされている。 一方、論文では、『聖註』I.1.1-4和訳[7]-[17]」『金沢大学文学部論集』(行動科学科・哲学編)22号を発表したが、これは、中世インドにおけるバクティの正統化への動きを明らかにしたものである。 以上、本年度は、『ジュニャーネーシュヴァリー』に見られるバクティとタントラとの関わりそのものよりもむしろ、両者の関わり自体をより広い視野から考察することで、次年度以降の研究に必要な理論的枠組み作りの準備を行ったのである。
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