本年度は、すでに和訳の草稿のある『ジュニャーネーシュヴァリー』四-五章の出版準備に力を主に注いだ。その結果、第四章の和訳は『マハーラーシュトラ』第八号にその成果を刊行することができ、また第五章については『マハーラーシュトラ』第九号に刊行予定である。 上記のすでに発表した『ジュニャーネーシュヴァリー』第四章の和訳は、どちらかといればバクティに関するものだが、その一方で、タントラに関する理解を深めるため、本年度は、シュリー・クラのタントラの研究にも取り組み、「印の結び方-『十六ニティヤー女神の海』第三章和訳」を『印度学仏教学』18号に発表することができた。これはすでに発表した「マントラとヤントラの用法-『十六ニティヤー女神の海』第二章和訳」『仏教の修行法』春秋社、2003.01に続く研究で、残りの一章、四章、五章の和訳もそれぞれ、東洋文化研究所紀要、神子上恵生博士退官記念論文集、長崎法潤博士退官記記念号、頼富本宏博士退官記念号に掲載が決定している。 他方、バクティとタントラが持つ現代的意義とその問題点に関しても、本年度は考察を行った。その成果が、『生と死を考える』(細見博志編)、北国新聞社、2004.01と『あなたはどんな修行をしたのですか-オウムからの問い、オウムへの問い』(NCC宗教研究所・富坂キリスト教センター共編)、新教出版社、2004.02である。そしてここではそれぞれ、生と死を超える宗教的手段としてバクティとタントラが持つ現代的意義と、オウム真理教の麻原のクンダリニー・ヨーガ体験のその理論化に見られるような危険性について論じた。 さらに本年度は、『ジュニャーネーシュヴァリー』に見られるバクティとタントラとの関わりを宗教史の観点からとらえる方法についての考察を行い、それを『宗教史の可能性』(岩波講座宗教3)に発表した。 以上、本年度は、『ジュニャーネーシュヴァリー』に見られるバクティとタントラとの関わりそのものよりもむしろ、両者の関わり自体をより広い視野から考察することで、次年度以降の研究に必要な理論的枠組み作りの準備を行ったのである。
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