本研究は、インド古典期から中世までの「言語哲学」に関連する諸テキストの語彙分析を通じて、思想史的方法によって、インドにおける言語哲学の展開過程の全体を明らかにすることを目的としたものである。この作業の第一段階では、インド言語哲学の代表的著作であるバルトリハリの『ヴァーキヤ・パディーヤ』の第1章と第2章について、その主詩節、彼の自註(『ヴリッティ』)、およびプンヤラージャの注釈のテキスト・データベースを作成し、マークアップ作業を行って、言語哲学と認識論・論理学に関連する要素的な語彙の定義集を作成することを試みた。 次に、ニヤーヤ学派の諸文献(『ニヤーヤ・スートラ』、『ニヤーヤ・ヴァールッティカ』、『ティーカー』)についても、言語論、言語哲学に関連するテキストのデータベース化と、語彙の抽出を行った。ニヤーヤ学派のテキストについては、古典的なテキストのほかに、新ニヤーヤ学派に属するジャガディーシャの『シャブダ・シャクティ・プラカーシカー』についても、「言語哲学」に関連する議論を展開するテキストを蒐集し、その思考法や概念の把握を試みた。 言語哲学の中心的問題である意味論を中心に、思想史的な展開を追って、「意味」をめぐるインド的な議論の展開の特質を明らかにしようと試みた。今回の研究では、もっぱら「文の意味」に重点をおいて論じる結果になったが、逆にそのことから、「語の意味」としてのアポーハの問題を、再度、今後の研究課題とすべきことを痛感した。 今年度は最終年度にあたり、報告書の作成を行った。報告書では、こうした作業を通じて得られた語彙研究の成果と思想史的研究の成果を、公表した。
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