ディーパンカラシュリジュニャーナによる基本的なテキストの校訂・和訳を終了したため、本年度は彼の主著である『菩提道灯論』に説かれたラムリム思想が、チベットにおいてどのよう受容されていったのかについて調査を行った。 まず、彼の『菩提道灯論細疏』の「タントラ」に関する部分について検討した。本テキストでは、著者はタントラに対して消極的な立場を取っており、ラムリムの立場からのタントラ文献に対する扱い方が解明された。また、同じ著者によるタントラに関する著書と翻訳についても整理し、これらを著者自身とチベット人学者のプトゥンによる二つのタントラ分類に基づいて区分し、著者がどのようなタントラに重点を置いていたのかの一端が解明された。 また、ディーパンカラシュリジュニャーナに帰されるスモール・テキストである二つの『大乗道成就摂集』について調査し、両者の関係を解明した。本論は、ツォンカパの『ラムリム・チェンモ』やパンチェンラマ1世による『菩提道灯論』の注釈書にも引用されており、本テキストがラムリム思想を論じる上で重要な文献であることが解明された。 続いて、チベットで著わされた『菩提道灯論』の注釈書について調査を行った。現時点で、17の注釈書を確認でき、そのうちパンチェンラマ1世による注釈書について詳細な調査を行った。本テキストは最も大部なテキストであり、そのため彼に先行するチベット人の文献からの引用も多く含まれており、チベットにおいて『菩提道灯論』がどのように読まれてきたのかが解明された。 最後に、ディーパンカラシュリジュニャーナがラムリム思想を確立する上で、その根拠とした先行文献が含まれている『大経集』のチベット語校訂テキストを出版した。
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