本研究の目的は、シャルパンティエ(Jarl Charpentier )の校訂本を底本として、ジャイナ教の最重要聖典の一つである『ウッタラッジャーヤー』(Uttarajjhaya)を、批判的かつ厳密に和訳を試みることにある。 今年度は、『ウッタラッジャーヤー』の後半部分、第21章から第36章までを順次和訳した。和訳をするに当たっては昨年度と同様な研究方法で行った。まず、これまでに公刊されているSutta AgameやVaidya等による諸刊本を比較参照し、韻律学の視点から異読(variant readings)に基づいた新しい読みを提示し、アルスドルフ、ノーマン、ボレー教授等、先学の清新な読みも批判的に検討・採用した。 また、『ウッタラッジャーヤー』にみられる未解読で難解なアルダ・マガダ(Ardha Magadhi)語彙を語源学的に考究した。欧米人やインド人学者の精密な関連研究を参照することによって、あるいは『スーヤガダンガ』をはじめとする最古層に属するジャイナ教聖典群、それに『スッタニパータ』、『ダンマパダ』、『テーラガーター』、『テーラガーター』等の最初期仏教文献にみられる並行詩節(parallel verse)や並行詩脚(parallel pada)によって、これら未解決のアルダ・マガダ語彙を、中期インド・アリアン語(Middle Indo-Aryan)の視座から解明することを試みた。そして、アルダ・マガダ語彙の正確な語源を提示し、できうる限りマハーヴィーラやその直弟子たちの原意を汲むよう一詩節ずつ慎重に和訳を試みた。
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