『ウッタラッジャーヤー』のような最古層に属する聖典を翻訳するに当たっては、原典批判はもとより、文法、韻律、シンタクス、語形、語彙等の組織的研究が要求される。これらのことを十分に考慮して、以下の基本姿勢を堅持しながら、シャルパンティエ(Jarl Charpentier)の校訂本を底本として、全36章の各詩節を細心の注意を払いつつ慎重に和訳を試みた。 1.テキストの読みを確定するに当たって、註釈書の読みを考慮し、刊行本のすべてを参照し、時には他の初期ジャイナ教文献や、パーリ仏教文献にみられる並行詩節(parallel verse)や並行詩脚(parallel pada)を比較・検討することによって、韻律学の視座からテキストの読みを確定した。 2.アルダ・マガダ語辞典に掲載されていなかったり、掲載されていても正確なサンスクリット対応語が与えられていないため、意味のよく分からない語彙については、註釈書の説明を鵜呑みにすることなく、中期インド語(Middle Indo-Aryan)の音韻論に基づいて正確な語源と意味とを解明した。 3.仏教文献や『マハーバーラタ』等との並行詩脚によっても語源を解明し、正確な意味を把握するよう努めた。 このようにして、一詩節ごとに他の文献の関連箇所(特に仏教)への言及の他、原典批判、韻律、文法、シンタクス、語形、語彙等に関する註記(Annotated notes)をしながら、『ウッタラッジャーヤー』の全章を和訳した。すでにAnnotated notesを伴った数章の和訳を公表したが、今後全章の和訳を公表していきたい。
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